ホームページ http://mamo-007.sakura.ne.jp

渾身の一作 5

 話は前後するが牧場に撮影に行った時だった。草原をバックにウェアを着せたモデル撮影していると最初100m近く離れていた牛たち30頭ほどが草を
食べながら段々近づいてくる。
 僅かずつ、こちらの様子を覗いながら、歩いているようには見えないが確実に近づいてくる。まるで「だるまさんが転んだ」をしている様である。牛は凄く好奇心が旺盛な動物なのだ。気がつくとカメラの後ろ1〜2メートルまで巨大な乳牛が迫っていた。それも集団である。
 流石にカメラマンもモデルも恐怖を感じたらしいので大声を出して追い払った事があった。すると一気に20〜30メートル離れて、その距離をキープしていた。そこは彼らの土地で我々の方が侵入者だったのだ・・・。
 
 トラックが牧場でUターンに失敗してクレーン車を呼ぶ事になったと書いたが、その所為で撮影が一日延長された。延長を決めたのは私だった。私は内心ホッとしていた ─── これで日没を気にせずゆっくり撮影出来ると思ったモノだ。
 ロケマネジメントは他の人間に任せていたので深く考えなかった。スタッフ総勢12名ほどで一日延長となれば一体幾ら掛かるのだろう? 運送会社、ロケバス会社、モデル4名の会社、宿代等々・・・。当時一日延長すれば40万ほどプラスになっただろうか?
 
 後で聞いた話だが、その件で私には一切、怒らなかったクライアントのH氏はトラック会社の社長には凄く怒ったらしい。「損害賠償するぞ」と電話でまくしたらしい。
 マネジメントを理解している今の私なら絶対に延長などせず打ち切っていただろう。
 
 後日、打ち上げでクライアントに接待された席で、そこの運送会社は費用をH社に請求してこなかったと聞いた。運送会社と印刷会社だけはクライアント直で取引していたのだった。
 私がロケの延長を決めた所為でトラック会社は大損害を被っただろうし、その運転手もかなり叱られただろう。今になって思うと悪い事をしたと思うが、もう時効だ。
 
 当時はデジタルではなく写植も版下も手作業で時間が掛かった。どの商品を掲載するか決まらない中、見切り発車をするしか無く、版下屋さんに途中の段階で発注するしかなかった。しかし途中で大幅に変更になり版下はすべて無駄になった。
 
 私も一度だけ徹夜をした事があった。しかし日曜日だけは絶対に休んだ。土日、出ると精神的に参るからだ。
 ロケやスタジオ撮影で10日近く会社に出られなく、私のデスクにはすごい量のシノゴ(4×5インチ)フィルムが毎日、積上げられ会社で評判になっていたらしい。「あいつは一体 何所で何をやっているのか・・・」と。昔から私は逐一、上司に報告しない人間だ。クリエイターとはそんな物だった。
 
 その総合カタログは40ページと48ページだったが制作費用は印刷抜きで当時の価格で一千万を軽く越えていた。最終的に幾らになったのかは私は把握していない。凄いアマちゃんだったのだ。当時勤めていた会社は制作の人間が請求費用を細かく詰める習慣は無かったのだ。
 掛かった費用に営業が乗っけて出すのだが、あまりにも掛かりすぎたのでクライアントと営業が “しんどい”やり取りをした事だろう。
 
 現在は全て、見積もりから始まる。金勘定から始まる仕事など面白いハズがないが、時代の流れである。
 昔はプラス、プラスの発想で請求額を決めたが、今は見積額からマイナス、マイナスの思考である。「アレも出来ない、これもヤメよう」なのだ。
ここら辺でチョット休憩。