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渾身の一作 6 最終章

 色校正は夕方に出来てきた。クライアントはその為にわざわざビジネスホテルまで用意していた。当時のH社のビルは自社ビルではなく夜11時になれば全員退出しなければならなかったからだ。
 そのビジネスホテルでクライアント2名と私の3人で夜中の2時頃まで校正チェックを入れて真夜中に印刷屋を呼び、校正を戻して終了した。
 当時、グラフィックデザイナーの仕事は色校正の最終チェックが済めば一応、お終いだった ─── 今でもそうだが・・・。
 長くて短い、一ヶ月は終わった。
 
 久し振りに金曜日に会社に出て見ると上司がまとめて代休を取ってEーと言うので翌週から取る事にした。「来週から休暇を取ります」とクライアントに電話すると直ぐに私の連絡先を聞いてきた。今更、私と連絡を取れたところで印刷に入っているのでどうしようもないのであるが・・・。
 
 翌週から上高地から乗鞍スカイラインの方にツーリングに出かけた。当時はマイカーでも入れたのである。10月末か11月始めだったろうか?
 その年の紅葉は最高に素晴らしかった。

 後日、打ち上げの席で、クライアントのH氏が本音をもらした。最初の会議の帰り際、「納期の件ナンですが、一ヶ月後と言うのは本気じゃ無いですよね? 」と私が言った時に「本気ですよ」と返したものの、あのように聞かれて汗が噴き出てきたと打ち明けた。「強気で言わないと完成しないと思ったから強い調子で言ったんです」と話していた。
 
 そのカタログが出来上がらないと「全国販売店大会」も成功しなかっただろう ─── 無事、納期に間に合った。
 出来上がった物は好評だったのは言うまでもない。ファイリング用に2穴開ける予定だったが、見開きのイメージカットを多く使っていたため、穴を開けるのは「もったいない」と言う理由で、私の知らないうちに無穴でファイル出来る製本方式で仕上がった。
 
 当時、乗っていたバイクを修理に出した所、店主がカタログを出して来て、ある商品を薦めてきた時だった「それ、ボクが制作したカタログなんですよ。ホラッ、ここに写真が載っているでしょう ─── これボクです」と自慢げに言ったのを想い出す。
 わたすもエキストラ役で参加したのだ。
 エキストラ以外にメインでも登場したシーンもある。扉に出たのだ。そのワンカットのためにモデルを雇え無かった為だ。

「顔を判らなくしてくれ」とカメラマンに指示したので喋らないと誰だか判らない。
 ほんの備忘録のつもりで書き始めたが随分長い文章になってしまった。このへんで終章にしよう。