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宝塚歌劇団

 ほとんど、愚痴を言わなかった母が生前、人生で一番悔しかったのは「宝塚音楽学校」に入れなかった事だと言ったことがあった。容姿端麗で学校で成績優秀だった母は卒業後、宝塚音楽学校に推薦で入学が決定していたのだと言う。田舎では初めての出来事だったらしい。皆に祝福され人生で一番ウキウキしていた時期だったという。
 ところが入学準備も終え、入学日の2、3日前に、うわさを聞いた、ある親戚が家にやってきて祖父に話しをしたらしい。「宝塚なんて云うのは芸人になるための所で、芸人というのは田舎芸者の様に身を売るような事もやらされる最低で卑しい職業だ」などと延々と話したのだという。それを聞いた祖父は、それを真に受け、急に態度を一変させ、娘の「宝塚行き」を許可しなくなったという。は〜? 大昔の地方ではそういうレベルだったのだろう。
 可哀想に母は祖父の「駄目」を泣く泣く、受け入れざるを得なかったそうだ。そういう時代だったのだ。歌う事が大好きだったのに、夢を追えなかった母の悔しさは容易に推察できる。
 
 しかし、仮に宝塚音楽学校を卒業して宝塚歌劇団に入ったとして、その道を歩んでいれば、父と出会わなかったかも知れないし、私も今、存在していなかったと思うと複雑な気持ちになる。
 
 その事を聞いた当時、子供だった わたすが言うのもおかしな話だが、夢をかなえさせてあげたかった。平凡な人生を送るよりは夢のある人生を送った方が遥かに意義があると思ったからだ。それで私が存在しなくても ── である。本心でそう思っているなら私が一瞬で消えるかも知れないと少し苦悩したが、消えなかった。