そば粉を水で練って団子状にして、すいとんの様に茹でて、ワサビ醤油で食べるだけのモノだが、父が好物だった。田舎では“そば粉”が手に入らないので、よく父に そば粉をリクエストされた物だ。
昔、父が東京に出てきた際、そばがきを食べたいというので巣鴨の蕎麦屋に入った。蕎麦と、そばがきを注文すると、女将は“そばがき”は昼の時間はやって無いと言った。我々のガッカリする様子を見た女将は厨房に相談に行って、何とか作ってもらえることになった。
実は、女将が「今の時間は やって無い」と言った時に私が「そばがきを食べるために、わざわざ親父は田舎から出てきたのに」と咄嗟に嘘を言ったのが効いたのかも知れない。
そばがきを食べ終えて、父はえらく満足したようだった。私もそば屋の そばがきを食べるのは初めてだったが 案外いけた。
その時、食べたそばがきに一番、近い写真
その後だったか “日帰り山行”で使える小さなナップサックを探していると父が言ったので登山用品屋に行き1000円もしないナップサックを見つけ、気に入った様なので買った。これも「エエもん見つけた」「東京に来た甲斐があった」と えらく喜んでいた。ほんの些細な事でも喜んでくれたので、こちらも嬉しかった。
父や母には 色々、聞いて置きたい事や話したい事が沢山あったが「話そうと思えば何時でも話せるだろ」と思っている間に、二人とも いなくなってしまった。人生とか、親子と云うのはそういう物なのかも知れない。