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コップの水の正体

 父の同僚でT先生という生物の先生がいた。父の交友関係で一番面白い人であったかも知れない。
 祖母が亡くなった時、しきたりに疎い父がその先生に来てもらい葬式や通夜、その他の段取りをすべて任した。
といってもそのT先生が細かく指示して動き回るという事は無かった。どーんと座っていただけだった。
 その日は休日でもなく既に父とT先生は別々の学校であった。父がそのT先生の学校の校長によく頼めた物だと思うし、よく校長も了承したものだと不思議なくらいだがノンキな時代であった事は間違いない。「おーいT君、N中学のT.R先生から君に直ぐ家に来てくれと電話入っとるどー」と言ったそうだ。
 そのT先生、父から話を聞くと中々面白い。朝、職員室の自分の机の上にコップ一杯の水が入っていて紙の書類でフタをしている。1時間目が終わると職員室に戻ったT先生がそのコップを一口飲んでフタをしてから2時間目の授業に向かう。
2時間めも終わって同じ事を繰り返す。3時間目も終わり少しずつコップの水が無くなり4時間目が終わった頃にはコップの水は無くなっていたという。
 お分かりだろうと思うがその水は水ではなく酒だったのである。今では考えられない話だが真実だ。アルコール中毒だったのだ。
 今なら教育委員会やPTAなどうるさくて即刻アウトだろうが良き時代だったのだ。その液体が日本酒だったのか焼酎だったのかは今では知るすべはない。
 わたすは学校が違っていたのでそのT先生の授業は知らないが、いとこの一人にT先生に習った人がいたので確認すると授業中「確かに酒臭かった」と言っていた。
 恰幅のいいひげのはやした先生だったが早くに亡くなられた。その先生の授業を受けてみたかったものだ。今はそのような人間くさく、酒臭い先生はおらへんから・・・。