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八ツ峰

昔、剣岳の八ッ峰を縦走した際、一番恐怖を感じたのは岩場ではなく
アプローチの長治郎雪渓だった。
 
夏山なのでピッケルもアイゼンも持って行かなかった。
オマケに私は軽登山靴だった。完全にナメていたとしか言いようがない。
軽登山靴だとキックステップも出来ない。
‪真砂沢ロッジ‬から大幅に出発が遅れたのにI、IIのコルから剣岳を目指した。
そこから八峰の頭を目指し “剣”の山頂を登って剣沢小屋に下山する予定だった。
 
出発が遅かったため長治郎雪渓に着いた時は10時を回り雪渓の雪(氷)が
太陽の光でツルンツルンになっていた。普通は朝早く此所を通過するのだが・・・
ここで誤って滑れば下まで滑り落ちることになる。途中止まれる所は無い。
ピッケルを持って無かったので滑ればアウトだ。さすがにビビッた。
夏山に登る際、道中ピッケルは荷物になるし持つのは恥ずかしいのだ。

画面では解らないが、この中腹から下を見下ろすと鳥肌が立つほど急斜面だ。
後ろを振り返らず前に進むしかない。滑落停止にはピッケルが欠かせないのに。
最低限、アイゼンは持って行くべきだった。
その時、長治郎雪渓には私と相棒のTしかいなかった。
先行者はとっくに行ったのかも知れないがこの雪渓には一日に数える位の
パーティーしか入らない。
その日のトレースは新しいキックステップの跡が無かったので誰も
入らなかったのかも知れない。
 
幸いなことに相棒のTは重登山靴を履いていた。
彼を先に行かせて雪にキックステップをして貰い、その跡を私がついて行った。
トレース(踏跡)があったが太陽が上に昇り、溶け始めていて氷のエッジが
丸みを帯びていた。軽登山靴だと滑る危険があったのである。
滅多なことで恐怖を抱かないわたすでも声が出なかった。
雪崩の心配は全く無かったが・・・。
 
I-IIのコルに着いたがII峰から始めた。八つ峰は登っては懸垂下降で下り、
又登っては懸垂下降の連続であった。ザイルワークに慣れていなければ
時間が掛かる。相棒の方がザイル捌きは巧いし確実だった。
 
午前中は見事な青空だったが午後から急激に曇ってきた。
5-6のコルには人が居た。

テントも張っている。この周辺の岩を岩登りしている人達だ。
 
六峰か七峰の下りでハッキリしたトレースがあったので、その踏跡を
頼りに歩いて行くとクレオパトラ・ニードルの基部にたどり着いた。

このクレオパトラ・ニードルを見た時に我々はルートを外した事に初めて
気がついた。
戻るか、行くか迷った。私は引き返すのが超苦手だ。
 
長くなったので続きは又、明日。