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渾身の一作 3

 ディレクションとは指導、管理する事だが、指示をする事だけではない。確たる保証や正解の無い中、複数ある選択肢から決定しなくてはならないのだ。
 多数決などで絶対に決めてはいけないのである。その場、その場でみんなの意見を聞きながら多数決などで決めていたらリーダーとしての資格はない。周りから頼りにされないし、信用もされない。
 経験上、間違っていても良いから独断で決めた方がEー場合が多い。
 
 よく、自信の無い奴がグループミーティング(ブレーンストーミング)をして方向性を決めていく奴がいるが「もうオママゴトはそれぐらいにしておけよ」と言いたくなる。「よくディレクターが務まるなー」と感心したりもする。その会議に集合させられた人達はEー迷惑なのだ。自分の仕事も持っているのに・・・。
 
 昔からわたすには独特の雰囲気があるらしく、単なる若僧には見られなかった様だ。
 どこの会社に入社しても私はベテランに見られた。それでトクをした事もあるが損をした事もある。
 コワモテで目付きがおっかない。ヘイコラしない、頭を下げない・・・。おまけに私は相手に合わせるクセがある。尊大で高飛車な奴には同じ様な態度を取る。腰の低い人には同じ様に腰を低くするのだが・・・。
 相手の立場がどうであれだ。これは性格なのでしょうがない。この所為で、疎まれた事もある。
 大体、威張り腐っている奴に共通しているのは “人間がチッセー” のが多い。外注の人間はいつも頭を下げてヘイコラしているモノだと思っている奴らが多いのだ。
 
 今、振り返ると、若い私の指示に周りがよく動いたモノだと思う。私より若かったのはアシスタントカメラマンとコピーライターだけで後はほとんど年上だったハズだ。

 ディレクターの仕事に妥協点を何所に置くかも重要な仕事だ。時間と金と体力との兼ね合いである。落とし所を見い出さなければならない。
 低すぎてはいけないし、高すぎれば時間と金の流出になる。黒澤明ではないのだから・・・。
 
 その仕事で一番手間取ったのは以外にもヘルメットの商品撮影だった。当初はこんな物サクサクと撮れるだろうと思っていたのだ。私は海外の高レベルなヘルメットカタログを持っていたのでメットに映り込む照明の位置や形も指示をした。
 
 ところがカメラマンが巧く出来ない。何度もポラロイドを切るが思ったモノが出来なくセッティングに3時間近く掛かってしまった。
 山のように撮影するブツが残っているのに・・・妥協するタイミングを失ってしまったのだ。カメラマンの力量を早めに見定め「その辺でEーよ」と言えば良かったのだが、少し時間を与えれば何とかなるだろうと思って続けさせていた。クライアントは黙って見ていた。
 
 後の打ち上げの席でクライアントのH氏が「Tさん、もうその位で良いよ」と何度も言おうとしたと話した。「あの時、ボク自身が何度もそれを口にしようと思ったけど “それを言っちゃー お終いよー” と思い言わなかった」と返し、互いに笑った。
 
 当初、クライアントから「販売店の店頭ディスプレイの参考に成るようなモノをお願いする」と言われた。オレはグラフィックデザイナーだ ─── ディスプレイデザイナーじゃない と思ったが、若かったので逃げ口上は打たなかった。
 でもスタジオ撮影に入るまで具体的なアイデアなど出てこない。色んな雑誌から参考に成るような資料を探し、スタイリストにブツ(撮影小物)を集めさせた。参考に成るような資料など実際にはあまり無かったのだが。
 つづく