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カフェ・ロワイヤル

 子供の頃、父はテレビコマーシャルを見てカフェ・ロワイヤルをやり始めた。スプーンに乗せた角砂糖にブランデーを垂らし火を着けてコーヒーカップに落とす飲み方だ。
 しかし父は普通、朝しかコーヒーを飲まない。朝に火を着けたとしても殆ど火が見えない。カフェロワは雰囲気を愉しむものだから朝のせわしい時にやるモノでは無い。さすがに毎回、火を着ける事はしなくなったがブランデーはよく垂らしていた。

  また、カウボーイ映画を観てきた時、カップのコーヒーを受け皿に流し、
アメリカではこういう飲み方をするんだ」と言って皿から飲んだ事もあった。流石にそれは一回きりだったと思う。
 
 当時、田舎ではコーヒー豆を挽いて飲む家庭など無かったが、何故か親戚にもコーヒー好きが多い一族だった。それも家ではブルーマウンテンだった。
 当時からブルーマウンテンは他のコーヒーより高かったが父はその豆に拘っていた。しかしブラジルの大寒波によりコーヒー豆全体が一気に倍近く跳ね上がった。さすがに家計に響くので父は他の種類のコーヒーに鞍替えした。
 貧乏な家だったが、父はその辺の嗜好品にはエラく拘り続けた。
 
 父が出張で大阪や東京に行く時に足が出るのでホテルや旅館に泊まれず、親戚の家に泊まるのが慣わしであった。
 ある冬、出張で京都か大阪の親戚の家に泊まった時、ボロボロの貧相なマフラーを着けて行った事があった。すると見かねた親戚が父が帰る際、デパートでマフラーを買ってきて父に渡した。父は一番下だったので兄弟から可愛がられていたのであろう。
 家に帰った父は家族にマフラーを見せながら「儲けた儲けた」と喜んでいた。